Ⅳ−2 通常必要時間みなしにおける時間外労働の算定

1 通常必要時間みなしにおける労働時間の算定要領

・ 内勤事業場外労働を明確に区分する
・ 内勤時間は正確に把握する
・ みなし労働時間は、事業場外労働のみに適用する
・ 労働時間=内勤時間+みなし労働時間で算定し、所定労働時間を超えた分が時間外労働時間となる

2 具体的事例による説明

上述の算定要領を、具体例を使って説明します。
以下、ケース1〜ケース3の事例について、下記の前提を置きます。

○ Aさんの会社で事業場外労働するものは、AM9時出勤、2時間の内勤の後事業場外労働をするのが通例である。
○ 就業規則あるいは労使協定に、

・ 所定労働時間は、AM9時〜PM5時の7時間(休憩1時間)、

・ 事業場外労働については、5時間労働したものとみなす
と定められている。

 (1) ケース1 

Aさんは、AM9時に出勤、AM11時まで内勤の後、事業場外で労働し、PM5時に帰社、内勤2時間の後PM7時に退社しました。

みなし2−1.jpg

労働時間=内勤4時間(2時間+2時間)+みなし労働5時間=9時間

所定労働時間7時間を超過した2時間(法内残業1時間、時間外労働1時間)が残業時間となります。

話はごく簡単なのですが、実務ではいろいろな疑問が生じます。

 (2) ケース2 

Aさんは、AM9時に出勤、この日はたまたま内勤が1時間で終了したので、AM10時から事業場外労働に移行し、直帰しました。

みなし2−2.jpg

この場合、内勤1時間+みなし労働5時間=6時間となり、労働時間は所定労働時間(7時間)に1時間足りません。1時間分の賃金カットをするのでしょうか。

実務としては、このような場合は「通常必要時間みなし」ではなく、「所定労働時間みなし(所定労働時間(7時間)労働したものとみなす)」を採用し、7時間労働したものとして賃金カットは行わないとすべきだといわれています。

この取り扱いは、内勤2時間とみなし5時間で、当初想定した1日の労働が経過してしまうように設定されていることから考えて、妥当と思われます。

※ この取り扱いについては、(社)東京労働基準協会連合会の『わかる労働時間管理』に記述されているようです。

(3) ケース3

Aさんは、いつものとおり朝2時間の内勤の後、事業場外労働に移行したが事業場外労働が早めに終了したので、PM3時に帰社、PM5時まで内勤しました。

みなし2−3.jpg

この場合、労働時間=内勤4時間+みなし労働5時間=9時間となり、2時間の残業が発生するのでしょうか。

事業場外労働を故意に早めに切り上げ、事後内勤した場合、必ず残業が発生することになり不合理です。

ケース2とのバランスを考え、所定労働時間帯内の労働については、所定労働時間みなしを採用し、所定労働時間労働したとみなすのが妥当ではないでしょうか。

※ この取り扱いについてはケース2とは異なり、明確に記述された書籍等はないようです。


以下のケース4〜ケース5の事例は、通常必要時間みなしを正しく理解していないために、問題が生起した事例です。

ケース1〜ケース3とは異なる下記の前提を置きます。

すなわち、

労使協定に、営業活動に従事する労働者の

・ 所定労働時間は、AM9時〜PM5時の7時間(休憩1時間)、
・ 営業活動に通常必要とする労働時間を8時間とみなす

と定められているとします。

 

 (4) ケース4

労働者が、その日はAM9時に出勤、AM11時まで内勤の後、外回りの営業活動に移行し、PM5時に帰社、内勤1時間の後PM6時に退社しました。

 

みなし2−4.jpg

この労働者の実労働時間は、8時間であり、みなし労働時間も8時間であることから特に追加の賃金は支払っておりませんでした(みなし時間のうちの1時間は所定時間外労働となりますが、営業社員の正規の給与の中に初めから組み込まれています)。

ところが、このケースの労働時間は、内勤3時間+みなし労働時間8時間=11時間の労働となり、残業時間は4時間です。ただし、1時間分はあらかじめ給与に組み込まれていますから、残りの3時間分の残業代を追加支給しなければなりません。

事実、これとほぼ同様の事例が行政指導の対象となっています。

「8時間しか働いていないのにそんなばかな!」と思われますが、「通常必要時間みなし」を適用する限りそうなります。


では、どうすればよかったのでしょうか。方法は2つあります。

<第1法>

純粋に事業場外業務の時間についてのみ協定を結ぶ。

午前中に2時間内勤の後、外勤しPM5時に帰社するのがこの会社の通例であれば、通常必要な事業場外労働の時間を平均5時間と見て「5時間労働したものとみなす」と協定しておけば、労働時間は、内勤3時間+みなし時間5時間=8時間となり、当初考えたとおりの労働時間となります。


<第2法>

所定労働時間みなしの協定を結ぶ。

こうすれば、午前の内勤と事業場外労働を合わせて、所定労働時間労働したものとみなされ、終業時刻後の内勤のみが残業時間となります。

よって労働時間=所定労働時間7時間+帰社後の内勤時間1時間=8時間となります。

 (5) ケース5

労働者が、その日はAM9時に出勤、AM11時まで内勤の後、外回りの営業活動に出かけ、PM7時に帰社、内勤1時間の後PM8時に退社しました。

みなし2−5.jpg

会社では、午前の内勤2時間はみなし労働時間に含まれると誤解して、PM7時帰社後の1時間のみを別途把握し、労働時間=みなし労働時間8時間+1時間=9時間と考えていました。


ところが、労働時間=内勤3時間+みなし労働時間8時間=11時間が、正しい計算です。


ケース4とケース5の例は、通常必要時間みなしを誤って理解していたため、このような問題が生じたのです。くれぐれもお間違いのないようにしてください。

以上、かいつまんで要点をご説明いたしました。

労働時間の算定は難しいものではありませんが、慣れが必要です。

 

筆者が社労士としてみる限り、多くの事業所で算定誤りが見られます。

労働時間の算定誤りは、残業代の算定誤りにつながり、

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