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労働者の権利意識の向上に伴い、近年、労使トラブルの件数は年々増加傾向にあります。
そして、未払い残業代を巡る労使トラブルは最も発生件数の多いトラブルの類型に属します。
ただ、このようなトラブルは円満な雇用関係を保っている間には、あまり発生しません。
多くの場合、退職間際あるいは退職直後に発生することが多いようです。
退職していく社員に失うものはありません。
特に怖いのは、次のようなケースです。
① 問題社員を退職させた場合に“不当解雇”など他の問題を絡めて請求してくるケース
② 同時に退職した複数人が、同時に未払い残業代の請求をしてくるケース
このようなケースでは、監督官庁に駆け込んだり、訴訟も視野に士業の先生を代理に立てて高額な請求を突き付けてくるなど、小さな会社にとっては負担の大きい厄介な問題となることが少なくありません。
それでは、未払い残業代を巡る労使トラブルが発生した場合に、会社が抱えるリスクを考えて見ましょう。
1 請求者のアクション
未払い残業代を請求する労働者のアクションとして考えられるのは、
① 労働基準監督署への駆け込み
未払い残業代がある場合、是正勧告書や指導票等の書類が交付されます。
これらの書類には強制力はありませんが、現実問題として従うことになります。
② ADR(裁判外紛争解決手続き)の申込み
a 県労働局設置の紛争調整委員会や社会保険労務士会労働紛争解決センター等にあっせん等を依頼(労使ともいずれの側からも依頼することができる)
b 現実策として弁護士や特定社会保険労務士に代理業務を依頼……依頼しなければならないわけではない
c 対応に当たっては、戦うための資料の作成など大きな負担が伴う可能性大
③ 弁護士に会社側との交渉を依頼
a 対抗上弁護士を立てざるを得ないことも多い
b 対応に当たっては、戦うための資料の準備など大きな負担が伴う可能性大
④ 裁判所に持ち込む
民事調停、訴訟、労働審判……など(細部省略)
a 弁護士を立てることが多い、又は立てざるを得なくなる
b 対応に当たっては、戦うための資料の準備など大きな負担が伴う可能性大
2 残業代債務の大きさ
月給10万円、平均所定労働時間:174時間(8時間×21.75日……週休2日)、時間外労働10時間/1か月と想定して、2年分(時効は2年)の残業代債務を見積もってみました。
※ 月給10万円は、20万円なら2倍、30万円なら3倍と月給額に応ずる計算(暗算)を容易にするため設定したもの。時間外労働時間を10時間/月としたのも同趣旨。
① 2年間の未払い残業代
10万円÷174時間×1.25×10時間×12か月×2年=17万円強
② 付加金
裁判になった場合、悪質な場合など支払いを命じられることがある。
最近は命じられることが多くなってきた。
その額は、未払い残業代と同額の17万円
③ 合計
17万円+17万円=34万円
算定の前提を修正して、仮に労働者の月給を30万円、月平均の未払い残業時間を40時間とすれば
34万円×30万円/10万円×40時間/10時間=408万円
例えば、3名が同時退職し、同時に未払い残業代の請求を起こしたとすれば、残業代債務は約1200万円となる。
そんなことは、“まずありえない”とお思いですよね。
そう!こんなことは滅多にあるわけではありません。
しかしながら、モンスター社員、問題社員、シュガー社員、クレーマー社員などといった言葉が乱舞する時代……、簡単に考えていいのでしょうか。
未払い残業代の請求を手伝う士業の先生方にとっても、1件当たりの額は小さいが“確実に勝てる戦(いくさ)”は美味しいそうです。
(通常の案件は、例えば裁判に勝つなどしなければ成功報酬がありません。)
“滅多にないことに備える”それが、危機管理です。
危機管理がなければ、事が起きてから右往左往するだけです。
経営者たる者、しっかり危機管理を行っていただきたいものです。
万全の態勢を築かれるよう願ってやみません。
危機管理について詳しく知りたい方は
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本文の「2 残業代債務の大きさ」に述べた債務の額は、大げさだと考える方も多いことでしょう。
しかしながら、これには他の問題と絡めた請求があるときは、もっと大きな金額になります。
例えば、士業の先生方に元従業員が、「不当解雇された」と申し出たとしましょう。
証拠さえ整いそうであれば、
「残業代はちゃんと払ってもらってましたか。」
「え?不払いがあった?じゃあ、未払い残業代も一緒に請求しましょう。」
という具合にどんどん高額になります。
戦いに負ければ、不当解雇後の賃金債権、慰謝料、残業代債務などが、請求されることになります。
滅多にないこととは言え、甘く見ないことが肝要です。
これを心配して、経営者に私どもが対策を進言すると、「うちは〇〇だから大丈夫」と上に述べたリスクは自社には無関係だといわれる経営者が少なくありません。
この内、次のような場合は要注意です。
① 「採用時に残業代はつかないと説明し、従業員も納得して入社している」から大丈夫!
② 「基本給は残業代込みだと説明し、相場より高めの額を設定している」から大丈夫!
③ 「残業代は営業手当等各種手当として支給している」から大丈夫!
④ 「管理職には残業代はつかない」と就業規則にも規定しているから大丈夫!
⑤ 「年俸制の者には残業代はつかない」と就業規則にも規定しているから大丈夫!
⑥ 「歩合給部分には残業代はつかない」と就業規則にも規定しているから大丈夫!
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