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1 歩合給制賃金導入の意義とリスク
① 成果追給型の賃金制度を実現し、合理的な企業経営を追及することができる。
② 従業員の努力の成果が直接賃金に反映されるため、労働意欲の高揚やチャレンジングな気風を醸成することができる。
③ 運用を誤れば、従業員の賃金収入の不安定化や賃金格差の拡大を招き、士気の低下を招く恐れがある。
④ 内外環境の悪化などで出来高が著しく減少した場合は、保障給負担などが増大する恐れがある。
2 賃金の乱高下と保障給の発生リスク
(1) 賃金の乱高下しやすい業界
① リスク
不動産業界や保険代理店業界などでは、歩合給制を採用する外交員等の月々の賃金額が乱高下し、保障給が頻繁に発生するリスクがある。
このため、保障給発生のリスクが高く、安定的な賃金制度として運用することが困難になる恐れがある。
② 改善策
・ 月々の賃金額を平準化し、できる限り乱高下しない賃金制度に改める。
・ 外交員を従業員とはせず、個人事業主に仕立てて、委託契約を締結する。
(2) 賃金が安定的な業界
① リスク
美容業界などは、保障給発生のリスクは、一般に小さいと考えられる。
しかしながら、近隣店との競争激化、店のメインサービスに対する需要の減退、何らかの原因による店の信用失墜、大きな経済ショックなどイレギュラーな事態が発生した場合においては、売り上げが著しく減少し、保障給の発生リスクが生起するといった事態も考えられる。
② 改善策
・ “固定給+歩合給”制を採用し、努めて固定給の割合を大きくする。
・ 歩合給制を用いず、勤務成績を如実に反映できる基本給洗替方式の固定給制度を導入する。
3 委託型経営から直接雇用型への転換
実態は外交員等を直接雇用しているにもかかわらず、個人事業主として位置づけていた企業が、直接雇用型へ転換を図る場合、次のような事態に直面します。
① 外交員を社会保険に加入させなければならない。 → 保険料(賃金の約30%)は労使折半
② 労働時間の把握義務が課せられるが、外交員の労働時間の把握は一般に困難である。
③ 外交員の活動経費は、外交員負担としていたが、雇用するとこれにも社会保険料がかかる。
この問題を解決するため、次のような検討が必要となります。
① 人件費なかんずく社会保険料及び割増賃金・有給休暇の賃金を適切に見積もり、これを賃金設計に反映すること
② 事業や業務の特性に適合した労働時間制度を確立すること
③ 外交員の活動経費の取り扱い(事業所負担とするか、従業員負担とするか)を可能な限り工夫すること
4 コンプライアンス賃金への脱皮
“歩合給分を割増賃金に反映していなかった”歩合給分を有給休暇の賃金に反映していなかった”“事業主委託型経営から直接雇用型に移行するにあたり、報酬の額が変化する”といった企業が、コンプライアンス賃金制度を確立するには、どうしたらよいか。
(1) 考え方
次の3点を基本に考えると、従業員の反対を抑制できるばかりでなく、賛成する従業員も出てくるかもしれません。
① 従業員の手取り額を減少させない
② 会社の負担増も極力抑える
③ コンプライアンスに適合した賃金制度を創設する
以上の条件を提示して、多くの従業員は反対するでしょうか。
(2) 改定作業の進め方
細かく言えば、いろいろな案が考えられますが、一例として、大筋で次のような改定作業はいかがでしょうか。
① 平均的な時間外労働・休日労働等の実績を把握する。
② ①で把握した時間外労働等の実績から、割増賃金の総額を算定する。
③ 固定給の額又はコミッション率を若干下げて、“従来の賃金額≒固定給+歩合給+固定残業代”となるよう、固定残業代を設計する。
5 歩合給制賃金の規定化
歩合給制を採用する場合、就業規則等に規定すべき事項には、次のようなものがあります。
なお、これらは必ずしも就業規則に規定する必要はなく、労働協約や労働契約等に定めることも可能です。
① 歩合給
コミッション率等歩合給の算定に必要な準拠を定める。
② 保障給
常に通常の実収賃金を余り下らない程度の収入が保障されるよう保障給の額(時間給)を定める。
③ 割増賃金
割増賃金の算定要領(割増賃金率を含む)を定める。
④ 有給休暇の賃金
所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、平均賃金又は健康保険の標準報酬日額のいずれの賃金を支払うかを定める。
計算式も規定化するのが適切である。
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