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自衛隊を56歳で定年退職した後、大手損害保険会社で交通事故損害賠償主任(人身事故担当)として勤務しました。
社会保険労務士として、自立することを考えなかったわけではないのですが、公務員(自衛官)としての経歴しかないので、ここはしばらく民間企業を経験してみようと思ってのことでした。
そして、損保会社で、「交通事故と健康保険・労災保険について」など社会保険労務士として自立するために必要なことを多く学びました。
例えば、交通事故の場合、健康保険や労災保険の使用を拒否するケースが非常に多いということです。
特に被害者に過失があり、治療費がかさむ場合は、保険を使用しなければ被害者が損するにもかかわらずです。なぜ損するのか?被害者に30%の過失がある場合を例にとってそれを説明しますと、
保険を使わなければ、治療費は2倍かかります。そのうちの30%は、被害者が自己負担することになります。つまりその分だけ加害者から受け取れる被害者の取り分が減少します。
保険を使用すると、自己負担の割合が同じ30%としても、治療費が保険を使わない場合の1/2で済みますから、取り分の減少も1/2となります(このあたりの計算は、極めて大雑把に述べていますので、細かく見れば多少の誤差が出ることをご了承願います)。この差は、通院治療で済む場合は、そこそこので金額の差で済むかも知れませんが、入院・手術を要する場合は大きな差となることが少なくありません。
残念なことに、顧問の社会保険労務士がいても適切な指導を行っていることは極めて少ないと申せましょう。多くの場合社労士は、「交通事故は損保会社やその代理店が解決してくれるから、私たち社労士が出る幕はない」と考えているようですが、とんでもない誤解です。大きな事故になればなるほど、社労士の出る幕は多いのです。
なぜこんなことを大切そうにいうのか。社員の面倒を会社がどの程度見るのか、その情報は社員全部に広がり、社員の会社に対する帰属意識や忠誠心に大きな影響を及ぼすからです。
※ 「よその会社よりも自分の会社の方が面倒見がよい、会社が社員のことをよく考えてくれている」という情報が一部の社員に流れたとします。これを伝え聞いた社員が、「うちの会社がこんなに社員のことを考えてくれているとは思わなかった」と意外感を持ったとしたら、その社員は黙っていられなくなって、更に他の社員に話すとは思いませんか。この話が多くの者に伝わり、ある日突然に社内の空気が一変するということは、実際に起こりうる話です。
経営者の株が上がるかどうかは、それを補佐する社員や社労士次第なのです。
ここまでは、保険を使うべきか否かについて述べましたが、休業損害証明書をどのように書けば被害者の1ヶ月の取り分が減少しないのかさえ知ろうとしない事務員も多いのです。わからなければ損保会社に相談するだけで解決するのに……。
流石にここまでの知識がなくても社労士を攻めることはできませんが、「休業損害は、自動車保険によって必ず100%保障される」と考えている社労士には泣かされます。そのような社労士は、100%以上の保障を求めるのは人倫に反するとして、休業(補償)特別支給金の請求すら提案してくれません。
確かに、入院中や全休中は、ほぼ100%保障されることが多いでしょう。しかしその後、通院や痛みのために時々休暇をとり、あるいは残業できないなどの場合、手取り額が減少することも少なくありません(ただし、休業損害を上手に請求すれば、損保会社から完全に保障してもらえることもありえます)。
このあたりも経営者の株が上がるかどうかの境目です。
縷々申し述べましたが、労災保険や健康保険を使用すべき場合は、躊躇することなく使用しましょう。社員のためを考えるのが、その庇護者としての経営者の務めです。
なお、事故等に祭し、健康保険や労災保険を使用するか否かを決定するのは、被保険者たる社員自身です。経営者の権利ではありませんのでご注意ください。
※ 交通事故における社労士の役割についても忌憚のないところを申し述べましたが、被害者に代わって社会保険労務士が、相手方(損保会社を含む)と交渉するということはできません(弁護士法72条に抵触)。ご了承ください。
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